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はじめに
こんにちは!aokitiです。
現在は、慶應SFCのRG(楠本・高汐・バンミーター・植原・三次・中澤・大越 合同研究プロジェクト)の中澤・大越研究室、d-hacks研究グループに所属しています。d-hacksは深層学習・AIを専門とする研究グループで、毎週木曜の4限・5限にミーティングを行っています。
今記事では、研究グループ内で直面していた課題に対して、毎週のミーティング体制を再設計した事例についてお話したいと思います。
ひとつの事例として参考になれば幸いです。
背景と課題
d-hacksでは、毎週4限の進捗報告ミーティング、5限に論文輪講会を行っています。
研究室全体の人数が多く、さらに指導教授は院生やプロジェクトを中心に見ているため、特に学部生の研究については(自分から相談しにいかない限り)中間・最終発表のタイミングで見ることが多くなります。毎週の進捗報告ミーティングでは、基本的に上級生や院生がアドバイスに回る形になっています。
近年のAI人気もあり、d-hacksには現在、学部生を中心に約40名もの学生が所属しています。
一方で、学部生の研究について指導できる上級生にとっては、毎週のミーティングの中で得られるものが少なくなりやすく、結果として、上級生ほど出席率が下がっていくという問題が浮き彫りになっていました。
また、人数が増えていく中でも一人一人に対して密に研究相談を行うことは難しく、4〜5人程度のグループに分けて研究相談の時間を1時間半設けていました。
ただ、他のメンバーへのアドバイスが行われている間は基本的に待ち時間となります。その結果、個人作業を始めたり雑談に流れてしまう人が増え、研究グループとしての出席の意義が感じられにくい状態になっていました。
ミーティングの時間配分と目的の再設計
今までは進捗報告ミーティングを4限、論文輪講会を5限に行っていました。
これに対し、今学期は進捗報告の時間を1時間半から45分に短縮し、主に1~2期目のメンバーを中心とした研究相談の場にしました。また、論文輪講の時間についても1時間半から1時間に短縮し、有名かつ基礎的な論文を発表する場として改めて位置づけ直しました。
(加えて、1~2期目のメンバーについては論文輪講の参加は必須とせず、代わりに新人勉強会を開催しました。この話については、また別の記事で詳しく紹介します。)

ここで、真ん中の90分を新たにどう設計するか?を考えました。
重視していた条件は大きく2つあります。
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1つ目、上級生にとっても参加する意味があること
これまでの進捗報告は、どうしても上級生がアドバイス役に回る構造になりがちで、自分が学ぶ側に回る機会が少なくなっていました。学部生・院生に関わらず新しい学びが得られる環境を作ることが、毎週のミーティングに参加し続けてもらうインセンティブになると考えました。 -
2つ目、ミーティング参加のための負担が増えないこと
輪講のような形式では、週ごとに担当者を決めて発表する必要があり、スライドの準備が発生します。既に論文輪講の担当を設けている中で、テーマは問わずともスライド作成の負担が増えるとなると、普段の研究時間がさらに削られてしまいます。結果、担当の割り当ても難しくなると考えました。

そこで新たに設けたのが、グループ輪読会の時間です。
これは、興味分野や知識レベルごとに少人数のグループに分かれ、1学期間かけて技術本を読み進める形式の勉強会です。
例えば、
- Deep Learning基礎班
- コンピュータービジョン班
- LLM(Transformer)班
のようにテーマごとにグループを作り、それぞれ3〜6人程度で進めます。
ここで意識したのは、「専門性の高い人の話をみんなで受け身で聞く場」ではなく、同じくらいの習熟度の人が一緒に理解を作っていく場にすることでした。論文だと、どうしても専門性が高くなるほど、他の人にとっては距離のある内容になりやすい面があります。その点、本をベースにした輪読であれば、各グループに合った分野や難易度を設定しやすくなると考えました。
対象とするグループ輪読本についても、あらかじめ難易度を整理しておき、今の興味と自分のレベル感を照らし合わせながら選べるようにしています。
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グループ輪読会の進め方
ここからは、実際にグループ輪読をどのように進めたかについてお話します。
ここで考案したのが以下の形式になります。

一般的な本の輪読会とは異なり、この形式では事前の準備や宿題を設けず、当日その場の時間だけで完結させる形にしています。
これは、これまでの論文輪講会での経験からメンバーごとに前提知識や研究分野が大きく異なるため、発表する側にとって理解を深める機会になっても、聴く側にとっては内容が分かりにくかったり、発表のクオリティにばらつきが生まれてしまう点も背景にありました。
具体的にグループ輪読会の進め方について説明します。
まず、学期の始めに興味のあるテーマ(読む本)ごとに分かれ、最終的に3〜6人程度のグループになるように調整します。
各グループごとに進行役を1人決め、毎週それぞれグループ内で一緒に読み進めてもらいました。
流れとしては、
- まず各グループは20〜30分ほど、その日に決めた章や節を各自で黙々と読みます。その際、理解したことや疑問点を、各々がScrapbox(グループ共有のドキュメント上)に書き出します。
- 20~30分が経過したら、その後は15分ほど議論の時間を取ります。分かった人は自分の言葉で説明し、分からなかった人はその場で質問する。必要なら本を見返したり、メンバー同士で補足しながら理解を揃えていきます。
- そしてまた次のパートを読んで、同じ流れを繰り返します。
これを90分の中で回し続ける形になります。
つまり、
読む(インプット)→ 書く(思考を整理する)→ 話す(アウトプット)
という学習サイクルになります。 これによって、理解レベルを段階的に上げていくことができ、議論という形でアウトプットすることで間違いへのフィードバックも得られるため、正しい理解に繋がることが期待されます。
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具体的に、実際のScrapboxの使い方も見ていきましょう。
各ページの上部には、分かりやすさのためにグループ輪読会の進め方とテンプレートをまとめています。
↓ 各ページの一番上(テンプレートなど)

↓ 例1: ゼロつく3のグループ(個人のメモとして使用する例)

↓ 例2: ゼロつく1のグループ(主に疑問点を書き出す例 2)

実際の使い方はグループによって異なっており、各々が個人のメモのように書き出しているグループもあれば、疑問点を中心に書き出すグループもありました。いずれにしても、書き出した内容をもとに議論を深めていく形になります。
この形式の良い点
輪講形式では発表スライドの作成が必要となり、発表者にとって一定の負担が生じます。既に論文輪講を実施している状況で本の内容まで事前に読み込むとなると、研究時間とのバランスを取ることが難しくなります。
一方で、グループ輪読会は、基本的にその場に来れば参加できます。事前に資料を作ったり宿題の必要もなく、毎週のミーティングの中に自然と勉強時間を組み込めます。特に、まだ勉強の仕方そのものが定まっていない1期目のメンバーにとっては、何をどう読めばいいかが場として与えられるのも大きいと思います。
また、研究進捗の場ではアドバイス役に回ることが多かった人でも、グループ輪読会では1参加者として学べます。もちろん、知識がある分だけ説明役になることもありますが、それは一方的に教えるのではなく、議論の中で自然に生まれます。
他にも、初心者のメンバーは、「何が分からないのかが分からない」という状態で質問できない場合もあります。でも皆さんも、例えば基調講演を聞いていて発表内容が難しくて十分に理解できなかった!としても、他の人との質疑応答を聞いていたら「あ~そういうことか」となった経験が一度はあるのではないかと思います。
このように、初心者のメンバーにとっても他の人の議論を聞く中で得られる学びは多く、一方向になりやすい新人講習と比べても良い点だと考えています。
評価
実際に4ヶ月間、毎週のミーティングにこの形式を組み込んで運用した後、最終週に匿名のアンケートを実施しました。有効回答数は18件です。
結果は以下のようになりました。




在籍期間の長いメンバーはやや厳しめに評価する傾向が見られましたが、全体としては4〜5を選んだ方が多く、導入した形式に対して一定の手応えはありました。
一方で、「自分のグループの輪読が機能していたか」という設問では、2や3を選んだ方も一定数いました。これについて理由を見てみると、特定の人だけが発言する状況が繰り返し起き、議論が一部の人に集中してしまうという課題があったようでした。
この点については、進行役の役割をもう少し明確にしたり、各ラウンドで全員が話せる仕組みづくりをしたりと、改善の余地があると感じています。

「Scrapboxに書く仕組みがうまく機能していたか」については評価がばらけており、低い評価も見られました。
先ほどの設問とあわせて見ると、疑問点が十分に洗い出されていなかったという意見や、特定の人しか発言していないという状況がScrapboxへの記述にも表れていた可能性があると推測します。
また自由記述には、宿題を設定したり個別に勉強する時間を設けた方がよいという意見も何件かありました。当日その場で完結させる意義もあるため、この点についてはいろんな人に聞きながら検討していく必要があると思います。
そのほか、時間配分や形式については、過半数の方々が現状の設定で適切だと回答してくれました。
この点については、単純に時間で区切るだけでなく、例えば章や節ごとなど、より細かい進め方についてはグループごとに委ねても良さそうかなと思っています。


まとめ
運用してみて特に良かったのは、これまで個人の勉強に委ねられていた部分を、研究グループ全体の仕組みとして支えられるようになったことです。
d-hacksのように人数が多いグループでは、研究に必要な基礎知識やその人に合った勉強方針の提示はどうしても難しくなります。
その中で、グループ輪読会は、全体の基礎レベルを底上げしつつ各自の興味の幅も広げるための仕組みとして、一定の役割を果たしてくれたと感じています。
また、このフォーマットはd-hacksの中だけに留まらず、同じやり方で別日に有志が集まり、グループ輪読を行う動きも見られました。今後は中澤・大越研の全体講義の中でも取り入れられないかという検討も進められています。
これは、「一緒に読んで、思考を整理し、議論する」という学び方そのものが、研究グループ内外で少しずつ定着し始めている兆しのようにも思え、運営側としてかなり嬉しい変化でした。
今後も、d-hacksの人数が増え続けていく中で、こうした取り組みを少しずつ改善しながら続けていくつもりです。
SFC生で深層学習・AI研究への興味や熱意のある方は、ぜひd-hacksに来てみてください。聴講やサブKGの方もお待ちしております!
https://d-hacks.jn.sfc.keio.ac.jp/joinus
Footnotes
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SFCの行列の授業って進行が理工より早いらしい。知らなかった ↩